軽減税率という愚策
軽減税率に関して、よく議論になっているのは、どの商品を、軽減税率の対象にするかという点である。私の(一応)属する新聞業界は、新聞を軽減税率の対象にしてもらおうと、露骨なロビイング活動を行っている。いつもは新聞を批判する週刊誌も、雑誌を軽減税率の対象にして欲しいので、沈黙している。文化ファッショとしか言いようがない。こんなことをして一時的な利益を得ても、中長期的には、必ず消費者に見放される。いい加減、やめるべきだ。
新聞社が、自らの商品への軽減税率導入を主張していることに対して、ネット上などでは、批判の声は強い。大手メディアにおいて、事実上制限されている意見がどんどん表に出るのは、言うまでもなく、健全なことだ。ただ、ネットでよく見られる主張は「新聞は必需品では無いので、軽減税率を適用するべきではない」という趣旨のものである。新聞が今や必需品では無い、というのは全く同感である。大体、需要がなくてどんどん部数が減ってるのに、「新聞は必需品だから税率を軽減すべし」なんてよく言えたものだと思う。聞いてください!新聞への消費税軽減税率適用のこと|日本新聞協会のような戯言は、一切無視して良い。
私がネット上の多くの意見と違うのは、新聞以外の、食料品などあらゆる商品に対しての税率軽減に反対であるという点である。つまり、軽減税率という制度自体を導入するべきではないと考えている。その理由は2つある。
第一に、何が必需品なのかを、完全に客観的に判断するのは、困難だという点である。困難というより、不可能だろう。結局、一部の人たちが、何が軽減税率の適用商品になるかを、主観的に決めることになり、当然そこには、新たな利権が発生する。(軽減税率の適用は、適用企業にとっては補助金と同じ意味をもつことに注意)我が国においては、毎度おなじみの展開だが、それをまたもや繰り返してしまっていいのだろうか?
第二に、軽減税率の導入は、本来自由であるべきの個人のライフスタイルが、事実上、ある方向に歪められてしまう点である。例えば、食料品のみを軽減税率商品に選んだとしよう。世の中には、様々なライフスタイルがあり、安アパートに住んで美食に励む人もいれば、カップラーメンを食べて高級車に乗る人もいる。生き方に、本来優劣などないはずである。しかし、この場合、前者の人は得をし、後者の人は損をすることになる。この損得を、正当化する理由はあるだろうか。少なくとも、私には思いつかない。国家権力が、後者の人に、前者のライフスタイルを推奨することになる。そんなことをする権利が、果たして国家にあるのだろうか?あるわけがない。どのような生き方を送るのかは、もちろん個人の自由だ。格差是正が目的であれば、国民全員に現金を支給すればいい。その上で、何が必需品なのかは、国民それぞれが判断すればよいのではないだろうか。
- 作者: 山崎元
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